香典返しについての考え方は、地域によってもさまざまです。自分が住んでいる地域だけでなく、遠くに住む親戚や知人から香典を頂いたときは、それぞれの地域のマナーを知っておかないと、お返しの際に恥を掻かないとも限りません。ここでは、香典返しの地域差について解説します。
目次
香典返しには地域差があるの?
香典をいただいた際は、感謝の気持ちを込めて、お返しを贈るという考え方が、いわゆる香典返しの習わしです。歴史としても大変古く、葬儀の際の相互扶助、いわゆる助け合いという考え方から、米や食料などを持ち寄ってお供えしたり、お返ししたりという風習が、現在の香典返しへつながっていったわけです。
一方、戦後の食糧不足の時代にあっては、冠婚葬祭にあてる費用もできる限り少なくし、生活の向上を目指そうという「新生活運動」という住民活動が各地で広まりました。葬儀の際の香典でも金額を決めて、お返しはもらわないという取り決めがありました。
一部の地域では、こうした運動のなごりもあって、香典は受け取っても、香典返しを受け取らないという習慣を続けているところもあります。
このように、香典返しの習慣は全国一律ではなく、地域によって差があるのです。
全国的な香典返しの相場
このように香典返しについては、地域によって考え方にも差がありますが、全国的な相場としては、やはり「半返し」という考え方が主流です。
半返しとは、いわゆる頂いた金額の半分程度の品物をお礼として贈るということです。例えば、香典の金額が5000円ならば2500円程度、1万円なら5千円程度の品物というわけです。この金額も3分の1程度から2分の1程度まで、地域によって差があります。
葬儀に参列する人が全国各地からということになると、香典返しの金額を幾らにするかを決めるのはなかなか難しい問題ですが、香典返しの金額で迷った場合は、一般的な相場である「半返し」を基準に考えた方が無難といえるでしょう。
参考:身内が亡くなった時の手続きハンドブック(奥田周年、 山田静江 日本文芸社) 88ページ
北海道の香典返しは即日返しが多い?
北海道の葬式には、本州とは異なる独特の風習があるといわれます。
たとえば、祭壇の前で親族が集まって集合写真を撮っておくとか、告別式を済ませて火葬場から戻ると、繰り上げて四十九日の法要を一緒に執り行うことなどです。その理由として、北海道は土地が広いため、親戚一同が集まる機会が少ないので、葬式の際に幾つかのことを同時に済ませて置こうという発想があるといいます。
そうした流れとして、香典返しも北海道の場合は後日返しより即日返しが多いようです。即日返しの場合、後日返しのように半返しとなるよう金額の調整ができませんが、葬式に関してはお互い様なので、お返しはお互いに最低限度に抑えておくという考え方があります。
しかし、北海道でも、かなり高額な香典を頂いた場合には、後日返しで、金額相応のお返しを贈るのが一般的なようです。
北関東の一部では、香典返しは受け取らない?
先に触れたように、戦後の復興期に始まった新生活運動も、人々の生活が豊かになるにつれ、高度成長期を迎える頃には、徐々に廃れていくようになりました。
しかし、北関東の群馬や栃木、埼玉、長野県などの一部の地域では新生活運動を今も続けており、香典の金額を明確に取り決めて香典返しを行わない、受け取らないという運動が続いているケースがあります。
たとえば、埼玉県の入間市では、市民の経済的負担を軽減できるように香典の金額は3000円まで、会葬礼状をのぞく香典返しは一切行わないという地域があります。
香典返しのやり取りを行う際は、葬儀を行う地域はもちろんのこと、葬儀の参列者がこうした地域にあたる人々かどうか、確かめておくとよいでしょう。
関東と関西の「のし」の表書きの違い
香典返しの表書きにも関東と関西では、違いがあります。
関東では表書きを「志」と書くことが多いのですが、関西では「満中陰志」と書くのが一般的です。満中陰志とは、中陰が満ちる、つまり四十九日の忌明けを迎えたという意味で、忌明け後のお返しならではの表書きといえるでしょう。
また、掛け紙に使う水引も、関東での黒白の結びきりに対して、関西では黄白の結びきりがよく使われます。
また関東では、弔事の掛け紙にはいずれも「志」の一文字で済ますのに対して、関西では「満中陰志」や「偲び草」など場面に応じて使い分ける傾向があるようです。
参考:世界で通用する一流のビジネスマナー(大部美知子 かんき出版)
青森や岩手、京都は忌明けを三七日や五七日に繰り上げる?
先程、北海道では、四十九日の法要を繰り上げて葬儀の日に行うことを紹介しましたが、その他にも、全国には、忌明け法要を繰り上げて行う地域があります。
例えば、青森では三七日(21日目)、岩手や京都では五七日(35日目)などに忌明け法要を行うことがあります。
青森や岩手では、雪国ということや地域が広いということなどの地理的条件から、遠方から葬儀に来る人々への配慮もあって、法要を繰り上げるようになったともいわれています。
京都で繰り上げ法要を行う理由としては、忌明けが3カ月にまたがるのを避けるためともいわれています。
参考:東北のしきたり(鈴木士郎 マイクロマガジン社) 225ページ
香典返しを受け取らない地域の方から香典を頂いたときは?
たとえば、先ほど紹介した「新生活運動」を行っている地域の人から香典をいただいたときは、香典返しを受け取らないというのが地域の理念ですから、その理念を尊重して香典返しは行わなくてもよいでしょう。
ただし、香典返しは「お礼」ということが基本的な考え方ですので、香典返しは不要であっても、そのままにせず香典を頂いたことへのお礼状をお送りしたいものです。
まとめ
・香典返しの風習は、全国一律ではなく、地域によって違いがある。
・香典返しの一般的な相場は「半返し」。いただいた金額の半分程度の品物をお返ししよう。
・忌明けの繰り上げ法要やのしの表書きなど、地域よって異なるマナーにも注意する。