「薄墨を使うというのをなんとなく聞いた覚えがあるんだけど?」普段用いるものではないだけに、いざという時に困るのが、香典袋の書き方ではないでしょうか。ここでは香典袋で用いる「薄墨」の意味や理由、表書きや名前の書き方などについて解説します。
目次
香典で「薄墨」を使う意味・理由は?
ところで、香典で薄墨を使う理由、皆さんは御存じでしょうか?
昔、手紙や文章の類は、墨を擦り筆を使って書いていました。硯(すずり)で墨を擦るには時間がかかります。薄い墨の色は墨を擦る時間も惜しんで、急いで書いて駆け付けたということを表しているのです。また、薄い墨は、涙が硯(すずり)に落ちて墨が薄くなったという意味から、亡くなったことへの哀しみも表しているわけです。
今は、わざわざ墨を擦らずとも、墨汁を水で薄めれば薄墨はすぐに作れます。しかし、趣味として毛筆を習っている人ならともかく、筆や墨汁などの道具を持っている人は少ないかと思います。
文具店やコンビニなどでは、香典袋とともに、薄墨で文字が書ける弔事用の筆ペンも売られています。そうしたものを用いれば薄墨の文字を書くことができます。
参考:冠婚葬祭贈答のお金マナー 表書き(主婦の友社) 11ページ
いつまで薄墨を使う?
上記のような理由から、香典で薄墨を使うのは、通夜と葬儀の香典だけに限られています。突然の不幸があって、急いで駆け付けるのは、通夜と葬儀のみだからです。
四十九日の法要になると、あらかじめ日時も決まっており、予定を立てることができるので、しっかりと墨を擦る時間があるという意味から、濃い墨を用いるようにするわけです。
香典袋の名前だけ薄墨でいい?
市販の香典袋(不祝儀袋)では、表書きがすでに印刷されているものが多いかと思います。中には「御霊前」や「御佛前」あるいは「御香典」などと印刷された数種類の表書きが用意されており、用途によって使い分けできるものもあります。
通夜や葬儀用に、表書きの文字が「薄墨」色で印刷されたものもありますが、濃い墨で印刷されたものが主流のようです。そうした表書きが濃い墨の香典袋を使った場合、薄墨のペンなどで名前を書くと、表書きは濃い墨で、名前の部分だけ薄墨になってしまうことになります。
特に決まりがあるわけではありませんが、濃い墨と薄墨が混在した表書きはあまり好ましいとは言えません。表書きと名前の墨色は、できれば同じにしたいものです。
一つの提案としては、表書きが印刷されていない白地の香典袋を用いるということです。文字に自信がないという方もいるでしょうが、名前に薄墨を使うのであれば、表書きも手書きで「御霊前」としたためてみてはどうでしょうか。
不祝儀袋は残しておくものではありませんが、亡くなったばかりの故人の霊前へ供えるものだからこそ、昔ながらの風習を大切にしたいところだと思います。
中袋の住所なども薄墨で書くの?
表書きと名前を薄墨で書いたならば、中袋の住所も薄墨に統一した方が確かによいはずです。しかし、薄墨になれていないと、読みにくい文字になってしまう恐れもあります。特に住所などは、後々、喪主や施主が香典返しを送るために用いることもあるので、見やすくはっきりと書いた方が親切です。
見にくくなりそうだと思ったときは、はっきりした文字で書くことをお勧めします。また、筆ペンを用いた場合、文字が太すぎて読みづらくなりそうだと思ったら、万年筆やボールペンなど、少し細いペンに持ち替えて書くようにするとよいでしょう。
なお、中袋の住所や香典の金額などを書かない人もいるかと思いますが、後々の会計や、香典返しを送る際など、香典の金額や帳簿、名前と住所を照らし合わせる手間を考えれば、書いておくほうが親切だと思います。相手のことを考えるなら、住所や金額などの項目は、ぜひ書いておくことをお勧めします。
薄墨がない場合はどうすればいい?
薄墨を用いるというのは、いつごろからの風習なのか、実ははっきりとはしていません。地域によっては、通夜や葬式の香典でも、濃い墨を用いるというところもあります。
薄墨が用意できない場合は、濃い墨で表書きや名前を書いても構わないと思います。特に表書きが濃い墨で印刷された香典袋しか手に入らないこともあるので、その場合、無理に名前を薄く書いても、全体のバランスが崩れてかえっておかしなことになってしまいます。
マナーも大切ですが、もっとも大切なことは、「読みやすさ」です。極端なことをいえば、どんなに達筆でも読みにくい草書体よりは、下手な字でも誰もが読める楷書体が一番ということです。
法事の香典は薄墨で書くの?
先にも書いたように、薄墨は原則として通夜と葬儀の香典だけに用いるものと覚えておいてください。
四十九日の法事は、すでにあらかじめ日時が決まっていますので、濃い墨を用いるようにします。以後、どの法事の香典でも、薄墨は用いません。すべて濃い墨で書くようにします。
せっかく薄墨のペンを購入したのに使う機会が少ないと思う方がおられるかもしれませんが、それでよいのです。不幸は少ないに越したことはありません。
参考:この1冊でOK!一生使えるマナーと作法(明石伸子 ナツメ社) 161ページ
まとめ
・香典に薄墨を用いるのは、原則として「通夜」と「葬式」の時だけ。
・香典の表書きは、薄墨がなければ濃い墨でも可。読みやすさとバランスを重視しよう。
・四十九日以降の法事では「薄墨」を用いず、すべて「濃い墨」を用いる。